来 歴

猟人


 たとえ あなたがどんなに快活な風を装つてやつて来ても 私に
はわかる あなたの選んだ道はあなたの細い首に似ず重くて長いの
が あなたの標的は止まることがないから あなたの指呼する一本
の道には果というものがない

 私の前にはいつでも曲りくねつて危ない坂がある しかし私の足は
けもののすみかまで一直線に跳ぶ 息ぐるしい私の首輪には なま
あたたかいけもののにおいと つめたいあなたの功名心が見えない
一本の網で結ばれている

 雪をかぶつた樹木が 巨大な熊にみえたからといつて あなたを
笑えない 懸崖のはるかな下 歯をむく滝の音は 群集の賞讃の拍
手だつたりして 標高千数米の山岳地帯には うつり気なあなたを
魅了するものが多すぎるのだ

 追うはずの私が追いつめられてしまつたら その時こそ私の独壇
場だ 私はあなたの綱から解き放たれ 黒い粗毛に掩われたけもの
の胸の中に 私の命とかかわり深い永遠という生き物を発見して
目を見はるには違いないからだ

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